但馬武、牟田口武志、小野裕之が語る、ブランドビジネスと社会性

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7月20日、SIRI SIRIの路面店オープンを記念したオープニングイベントの第2弾が行われました。但馬武さん(fascinate/ブランディングディレクター)と牟田口武志さん(IKEUCHI ORGANIC)、小野裕之(SIRI SIRI共同代表)による、「ブランドビジネスと社会性」についての対談です。




ブランドの社会性とは

写真右:小野裕之(SIRI SIRI共同代表)

写真右:小野裕之(SIRI SIRI共同代表)

小野:SIRI SIRI共同代表の小野と申します。2016年にSIRI SIRIの共同代表になりました。資金の運用や人事も含めたチームビルドなど、ビジネス面を中心に担当しています。

SIRI SIRIは立ち上げから13年が経ちましたが、当時からデザイナーの岡本が職人さんにアイデアを伝えてプロダクトにしていただくという、手間暇かけたつくり方をしています。お客様がグッと増えましたが、大量生産ができるものではありません。そこで、今までの形は変えずに生産を増やすにはどうすればいいかと考え、工芸やものづくりを次世代に伝える思いも込め、生産にご協力いただける職人さんを育てることにしました。また直販店やオンラインでの小売も行い、職人さんに還元しやすい仕組みづくりを進め、今のビジネスの形ができていきました。

こうしたブランドビジネスの裏側を具体的に聞ける場は少ないと思いますので、みなさんに参考になる情報をお伝えできればと思います。では、お一人ずつ自己紹介をお願いします。


牟田口:こんにちは。IKEUCHI ORGANICの牟田口です。弊社は約100社ある今治タオルメーカーのうちの一社で、「最大限の安全と最小限の環境負荷」が理念です。素材はすべてオーガニックコットン、産業排水は海に流せるレベルに再生して環境負荷を抑え、商品には赤ちゃんが口にしても安全な国際認証を取るなど、環境と安全に徹底的にこだわっています。でも、一番の強みは品質の高さです。タオルは消耗品と思われがちですが、弊社では5年、10年と使えるものを製造しています。

実は僕は、4年前にAmazonから今の会社に転職したんです。プロダクトが魅力的でものづくりにも妥協しない会社でしたし、今後の自分が社会にいかに貢献できるのか考えた時に、ここしかないと。現在は、営業責任者兼広報として国内外と法人の営業を行う傍ら、「イケウチな人たち。」( https://ikeuchinahito.com/ )というオウンドメディアを運営しています。よろしくお願いします。 

小野:今治の工場で生産して、表参道や京都の自社店舗で販売する一貫体制をお持ちだし、法人ではホテルやコラボ事業もされているなど幅広いですね。では、但馬さんお願いします。

但馬:但馬と申します。2016年までパタゴニアというアパレルに20年務め、長く通信販売部門の責任者をしていました。個人的に環境問題や原発反対運動に関わる中で、パタゴニアの売上を10倍増やしても社会問題は10分の1に減らないと気づき、残りの命の使い方も考えた時に「パタゴニアみたいな企業を100社増やせば社会は変わるかも」と、コンサルタントの副業を始めました。その後転職と独立を経て、コンサルタントをしています。社会性と事業性が両立した、社員と顧客に愛されるパタゴニアのような企業をLovable Companyと定義し、そういう企業に伴走しながら、企業理念策定や事業構想を通じたファン育成を行っています。 

小野:この半年ほど、SIRI SIRI営業チームが販売向上のためのマーケティングのほか、SIRI SIRIらしさとその先に続く社会的価値を考え、課題解決に繋げる文化づくりと実践を但馬さんに学んでいるんです。ちなみに但馬さんのお仕事は、具体的にはどういった内容が多いですか。

但馬:顧客や従業員から愛される企業になるための伴走をしています。社会性と事業性のバランスが重要になります。また、働くスタッフの充実感もとても重要なのですが、企業が成長してステージが変化したのに、企業理念や社外へのメッセージがそのままだったりで現場が混乱しているケースをよく見かけます。問題を解決した上で、社員が「ここで働いてよかった」と思える仕組みに変えていきます。そのプロセスでは、変化の中で方向性の違いが明確になり、社員の退職も発生することがありますが、それも必要な変化なのだと思います。

小野:会社は成長すると人格を持ち始めるし、社長やファウンダーの所有物ではなくなってきますよね。周りからどう見られているか、どんな価値をつくれるかは社長自身も想像できていない部分もあるでしょうし。牟田口さんのいらっしゃるIKEUCHI ORGANICでは、ブランドの社会性やあり方を社内で議論していますか。

 牟田口:代表の池内が、毎朝の朝礼で環境やビジネスに関するメッセージを全社員に発信しています。弊社は元々地場産業で、近年入社した社員は理念やナガオカケンメイさんによるリブランディング後の、洗練されたブランディングに惹かれた人間が多いですが、地元の社員さんには2003年の民事再生前から働いている人もいて、地場産業の企業として様々な背景を持った社員がいるのが現状です。

小野:生産から販売まで自社で行うような小さい企業だと、劇的な変化を進めるとどこかが破綻しかねませんね。

牟田口:はい。僕も入社直後はすぐに変えようとしてダイレクトに伝えていましたが、中には急激な変化に戸惑う社員もいるし、そうすると対立しか生まれないんです。ですから、今は少しずつやり方を変えています。 

小野:今までの施策で、社員の社会性が変化したという具体例はありますか。

牟田口:社会性かはわかりませんが、社員のモチベーションが大きく上がったことが一つあります。それまで一切公開していなかった工場と職人さんたちをWebサイトで紹介したことで、お客さんから要望が起こって2017年に工場見学イベントを行うことになったんです。有料にも関わらず全国からたくさんのファンの方が参加くださり、職人さんたちもお客さんの感謝の言葉をいただいたり、笑顔を見たりしたことでずいぶんとモチベーションが上がったようです。こうしたお客さんとつくり手を直につなぐ仕組みは、それ以降も少しずつ増やすようにしています。 


企業の事業性と社会性を両立させるには

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小野:いつも但馬さんが「社会性から始めた企業だと事業性をつくりにくい」と話されていますが、どんなに美しく語ろうとしても事業性と社会性は裏表一体です。どうすれば改善できるのでしょうか。

 但馬:事業性と社会性を見事なまでに両立しているブランドとしてパタゴニアの知名度が高めるにつれ、最近のパタゴニアのアクションから学び、自社で再現しようとする人々が多いように思います。でも僕は、いまのパタゴニアではなく、まだ未成熟であった1998年くらいからの約10年の変化を学んだほうがいいと思うんです。

写真右:但馬武さん(fascinate/ブランディングディレクター)

写真右:但馬武さん(fascinate/ブランディングディレクター)

まず、僕が入社したのは1997年ですが、環境問題を解決する企業という意識は低く、アウトドアスポーツアパレルの意識が高い時期でした。その後、米国本社とのセッションが進み、日本支社内でも環境保全に関する視点が増えてきました。その後、外からソーシャルビジネスとしての評価が高まったことで環境保護に意識が高いスタッフが増えてきて、アウトドアスポーツへのコミットメントが相対的に薄く感じる事象が社内で発生する流れにつながります。その事態に危機感を感じた創業者であるイヴォン・シュイナードは、2004年に企業理念を更新し、「環境問題の企業ではなくアウトドアスポーツのためのブランド」と再定義し、いわゆる事業性を特化する判断につながっていきます。

もちろん、環境保護への対応については世界最高水準で実施し続けているので軽視していたわけではありません。ただその対応により、多くの革新的な製品がうまれ事業は拡大し、また製品づくりにおいても環境負荷経験や生産現場における労働環境の改善が進み、グローバルで展開する企業の中でも最高峰の透明性を担保したブランドの確立につながっています。2018年12月には再度企業理念が更新され、次のステージに進んでいます。事業性と社会性は別のものではなく、一体で考える必要があるし、また物事には順番があるんです。

小野:社会的なら許されるって免罪符になりがちですからですね。パタゴニアは但馬さん以上に環境保護思想の社員もいるでしょうし、会社をあげて選挙へ参加することの大切さを伝える「vote for planet」キャンペーンも仕掛けています。社内に多様な思想の人が混在するってすごいですよね。

但馬:アメリカでは市民活動が盛んで、アクティブに活動している社員も多くいます。創業者だけではなく、そこで働くスタッフ全員がアクティビストであることが大事で、その文化はイヴォンを中心につくりあげてきたもので、とても大事にしています。 

小野:元々バランス感のある人なのでしょうか? 無意識にも、戦略的にも見えますが。 

但馬:戦略的というか、自分達の創り上げたい世界の実現に向けた行動にコミットしていると思います。必要なことに対して純粋に制度をつくり、文化を醸成しています。組織全体にもいえて、たとえば、オープンフォーラムという対話の場が定期的にあるんですが、社内誰もがイヴォンやCEOに対して意見や提言することができ、うまく活用しています。その意味では、採用こそがとても大事だと思います。

小野:なるほど。日本ではどうですか。IKEUCHI ORGANICでは、地場産業の認識で入社した古い社員とブランドや理念に惹かれて入社した新しい社員の認識を、どう擦り合わせて高めていますか。

牟田口武志さん(IKEUCHI ORGANIC)

牟田口武志さん(IKEUCHI ORGANIC)

牟田口:今、一番苦労しているところです。工場の人はいかにいい物をつくるか、僕らはお客さんに商品そのものや背景を伝えていますが、お客様からの反応はできるだけ本社にフィードバックするようにしています。20年前はOEM中心でしたので、お客様の顔が見えない状況でしたが、今はこれだけ熱烈なファンがたくさんいるんですと、話して理解してもらうようにしています。できるだけ今治本社に行って、営業のことも、生産に関わることも聞くようにして、少しずつ距離を縮めているところです。

小野:それは全社的なこととして? 個人として?

 牟田口:まだ個人レベルです。朝礼以外にも代表の思いを発信できる場や、部門を超えて社員同士が語る場をつくりたいと思っています。その他にも、地域の拠点をつなぐ活動に取り掛かろうとしている状況です。

 小野:パタゴニアの対話型アプローチを、土着企業のIKEUCHI ORGANICが取り入れたらどうなりそうですか? 日本型の企業は議論慣れしていないし、他人には口を出さない感もありますよね。

 牟田口:そうですね。みんなでオープンな議論をするのは時間がかかると思います。たとえば、僕らと関係ない第三者に入ってもらって小グループで会話をするなど、階層や年齢を気にしなくなるようなやり方を考える必要がありそうです。

 小野:小さめの会社だと、人間関係が経営の根幹という側面もありますしね。当事者だけだと人格と意見が切り離せない場面も出てきますし、正しさよりも好き嫌いで決まることもある。日本の組織って対話型になれるんでしょうか。

但馬:お手伝いしている企業では、対話の場を定期的に取っています。そこで自分たちの存在意義であるミッションと10年後に実現するべきビジョンを確認し、組織で重視する価値観づくりやアップデートを行っていきます。これまでの流れや価値観を手放せない人は必ずいて、特に社歴が長い人に多いように思います。気持ちがとてもわかるだけに、だからこそ社外も含めた多様なレイヤーでの経営課題に対する対話の場はとても大事だと思います。

 小野:社内には社会性を追求したい人、事業性を追求したい人の両方がいるジレンマを抱えた状態でいいはずなのに、なぜかそれをなくそうとしますよね。同じ方向性の人を揃えがちな中で、いかに矛盾したままでいいと見直せるか否かは大きな転機と言えそうです。

企業が成長するためのアイデアの一つになりそうなのが、パタゴニアがPwCというコンサルティング会社と組んで、アパレルの原料調達から工場の勤労環境、流通や売場、リサイクルの過程まで含めたライフサイクルの業界標準をつくったことです。この業界標準をウォルマートが一緒につくったことで、今やその仕入れ業者のコカコーラもブランディング面でならう必要ができた、といった影響も起こっています。アメリカ最大の企業までもが、パタゴニアの基準にならわざるを得ないわけです。

そんなダイナミックな変化は、日本社会ではまだないですよね。IKEUCHI ORGANICもSIRI SIRIも、こうした建設的な社会の変え方はあるんじゃないかと思うんです。業界標準をつくってロビイングをし、流通の基準を上げて改善サイクルをつくる。そのパタゴニアの方法は合理的だし、日本でそれができれば小さなブランドでも大きなインパクトを残せるのではないでしょうか。

 但馬:パタゴニアでは様々な業界での基準をつくってきていますが、そのひとつである、持続可能なアパレル産業を目指したサステナブル・アパレル・コーリションは、いつ企業が持つ社会がよりよくなる仕組みに関する知識を、クローズにしたままにするのではなく、競合を含めたみんなで共有化してよりよくしていこう、という取り組みで、今では全世界のアパレルブランドの3分の1が加入するまでの規模になりました。

 小野:いち企業の行為から生まれた業界標準であることに意義がありますね。業界内でのいい企業のあり方を定義して、みんなで集まってリソースや時間を提供しながら、ゆっくりとでも実現していけるといいですね。

リフレーミングとコンテキストの重要性
但馬:ここでSIRI SIRIの話なんですが、ブランドに一番大事なことは、自分たちの役割をどうリフレーミングできるかだと思うんです。SIRI SIRIは岡本さんの金属アレルギーから始まったと思いますが、おそらくお客様は金属アレルギーだから購入しているわけではないですよね。岡本さんやブランドのあり方に勇気をもらえるとか、挑戦する時に身につけるとか。女性が自らのエネルギーを解放していいと思えるブランドへとリフレーミングされているんじゃないかなって。ただ、こういうリフレーミングはお客様のほうが早くて、社内の人は意外に新しい価値に気づかないことが多いんです。

小野:そう!

但馬:外から入った人はブランドの価値に気づいて入ってきたのに、中の人は全然意識してないとか。 

牟田口:本当にそうです。先ほど話されていたように、僕らもオーガニックやサステナブルの面で取り上げられることが多いですが、普段の接客で、最初から環境面やサスティナブルに特化した話はしません。豊かな生活にしたいからタオルを買うというお客様が大半だからです。お客様にとって価値ある商品をどうつくるかが一番大事なんですよね。先日、noteのIKEUCHI ORGANICコラムに「ストーリーを売ることへの違和感」という池内のコラムが公開されたんです。サステナブルとか環境にいいとかのストーリーを先に伝えるより、いいものをちゃんとつくりお客様にそれがどんな価値を与えられるかのほうが大事だ、とあって。そこを広げることが、僕らのやるべきことだと思っています。

小野:数年前まではストーリーで売ることが大事だと言われていました。途上国の過酷な生産環境が改善されました、みたいな。でも生活者からすれば、いいものや好きなものに囲まれて暮らしたいのに、社会的なストーリーがあるからと購入するのはやや無理がある。消えものや食べものなら買ってもいいけど、洋服や生活用品だとそれだけではないですよね。

但馬:最近「Content is king, context is queen」ってことをよく話すんです。マーケティング業界で言う「王は女王に従う」の意味で、ストーリーは消費されて終わるけど、コンテキストは社内の文化醸成によって日々生まれてくる。そしてスタッフの日々の接客や経営判断の源にもなるものだから、コンテキストをいかにつくるかが大事だなと思っていて。同じストーリーでも、つくろうとしてつくったストーリーとコンテキストから生まれたストーリーはまったく違いますからね。

小野:深さが全然違いますね。単なるストーリーは、話すことを目的にした「いい話」にしかならないけど、コンテキストから生まれたストーリーはブランドの紆余曲折や実体を伴うから。 

但馬:そう。そこまでじっくりと向き合えるオーナーやデザイナーがいるかいないかでも全然違うでしょうね。結果的に、パタゴニアも利益率や売上が急速に伸び始めたのは創業から30年経った頃です。

小野:今年で創業46年ですか。そういう企業のタイムスパンを聞くと勇気をもらえますね。今は若くしての成功が重視されやすいですが、僕は経営者人生のゴールを60歳前後に考えていて。会社運営って焦りが禁物なとこがありますが、そう考えると慌てずに待てるんです。丁寧につくった会社のほうが長持ちするし、引き継ぎたいという人も出てきやすいんじゃないかなと。会社経営もブランドづくりもじっくりやればいいって積極的に伝えているんですが、ありもしない将来の話だと思われがちで。だからパタゴニアのような先人の話はありがたいです。

但馬:よかったです。実は今、百年以上続く企業をお手伝いをしていますが、彼らが社会を変えたいという気持ちで動いているかといえば、そうでもないんです。自分と自分の周りの人を幸せにすることを続けてきているわけで、決して世界を、という視点ではないんです。僕はパタゴニアのような、社会をよくしていきたいと願う企業に20年勤務して、日本における限界を感じることも正直あります。ミッション型企業やビジョン型企業と同様に、人々への愛を軸にした企業があってもいいんじゃないかと思うようになりました。周りの人を幸せにすることに特化して、それが結果的に誰かを幸せにしていく。それがこれからをつくる会社の在り方であり、実は自分らしさを出せる方法でもあると気づいたんですよね。

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SIRI SIRIのようなブランドが、これからの日本にどのような形で新たなインパクトを残していけるのか。その強みと社会性の関係について、改めて考えさせられる機会となりました。

文 木村 早苗

写真 伊丹 豪