呼吸する籐、その生命力を手に

ガラス、籐、螺鈿……。SIRI SIRIのジュエリーは、生活のまわりにある素材でつくられています。連載「素材への旅」では、素材の由来や特徴をひもときながら、そこにあらたな価値を生み出す視点を掘り下げます。

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軽さと強靭さ、柔軟さを持ち合わせ、椅子などの家具に用いられることの多い籐(とう)。SIRI SIRIのARABESQUEシリーズを手がける籐細工職人、岡安康子さんは「籐は世界で一番長い植物で、長いものでは200mにもなる」と教えてくれた。

製品になると柔らかな印象を与える籐だが、生えている姿はかなり野性的。熱帯雨林地域に自生するヤシ科の植物で、太さは2〜5cmほどで表面に鋭い棘があり、他の植物の間を這い上って成長する、つる植物だ。

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種類は約600もあると言われるが、家具や籐細工に適しているのはそのうちの数種類に過ぎない。日本に輸入される籐のほとんどはインドネシアなど東南アジアで採られ、人の手によって加工されたものだが、過度な伐採や開発によって、現在は良質の籐が希少なものになっているという。「今では1週間もかけて山奥に取りに行っているそうです」と岡安さんは現地の人々の苦労を思う。
「だからこそ、丁寧に素材を扱わなければいけないし、長く使えるものをつくりたいと思うんです。」

人の手によって引き出される籐の魅力

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生活の中で籐を利用するのは長い歴史があり、古くは古代エジプトで籐のスツールが使われていたという記録がある。日本でも平安時代にはすでに使われていて、椅子やかご、弓などに用いられていたという。ヨーロッパでも珍重され、ルイ13世やルイ14世も籐の椅子を愛用していた。

熱帯雨林地域でしか育たない籐が世界中で利用されてきたのは、その繊維が植物の中で最も強いと言われるほど強靭なことに加え、加工もしやいから。ただし、籐はただ伐採しただけで使えるわけではない。まず男性が5〜6mの籐を輪にして山から下ろし、女性が伸ばして干す、男性がさらに熱処理をして曲げるなど、様々な行程を経て丸籐(まるとう)と呼ばれるものにする。そのまま椅子やソファーのフレームなどにも使われるが、多くはさらに加工を施されて細工品の材料になる。

皮の部分を剥いだ皮籐(かわとう)は接合部分に巻いて補強したり、編んで様々な用途に使われる。皮を剥いだ芯の部分(丸芯)も、ひご状に加工され材料となる。断面によって、丸芯、半芯、平芯などの種類があり、組み合わせて編むことで多様な形をつくることができる。

「ピアスに使うのは細い丸芯で、これを淡路結びにします」そう言って岡安さんは流れるような所作でピアスを編んでくれた。籐には柔軟性があるため、複雑な結び目も編むことができる。続いてバスケットを編むところも見せてくれた。バスケットに使われる丸芯はピアスのものよりも太く、編むのには力がいる。「力がいりますが、籐だからこれだけ太い素材でも自在に編むことができるんです。他の素材ではこうはいきません」と岡安さん。実際触らせてもらうと確かに力はいるが、意外と素直に曲がってきれいなカーブを描く。

強靭な籐が柔らかさを持つもう一つの理由は、水を吸収する性質によるものだ。籐は水を吸うと柔らかくなり加工しやすくなるため、編む前に水につけておくのだという。そして、濡らして曲げられた籐は、乾いてもその形を保つ。この特徴が複雑な籐細工を可能にしているのだ。

また、籐は水につけなくても、空気中の水分を吸ったり吐いたりするそうで、岡安さんはそれを「呼吸をする」と表現する。断面を見せてもらうと、細かな穴がたくさん空いている。この穴がストローのように水を吸い上げる役目を果たしたり、湿気を吸着する役割を果たすのだとか。この特性を活かして、籐はアロマスティックにもよく使われる。

籐細工になっても、植物本来のこの特性は失われない。だからピアスやバスケットになっても籐は呼吸を続けている。よく「職人はものに命を吹き込む」という言い方をするが、籐の場合は、そもそも持っている生命力を、つくり手が活かすことでその力があらわになるのかもしれない。

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ジャングルの野性的な植物である籐は、柔らかで美しく、命を持った工芸品に変わる。

籐という素材が持つ最大の魅力はその生命力であり、私たちにその生命力をそっと渡してくれる幾人もの人たちの手が、そこには添えられている。

文 石村 研二

写真 伊丹 豪