ジュエリーの考古学。古代における装身具について

既成概念に縛られず、自分の美意識に忠実に生きる。連載「自由の探求者」は、そんな「自由の探求者」の思考に触れることで、既知の物事や時間の概念を軽々と超えてしまうようなイメージの力を喚起します。

 
Photo by Philippe Fragnière

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人は、いつからジュエリーやアクセサリーといった装身具を身につけるようになったのか?

そして、古代の装身具はどんな役割を果たしていたのか? 現代における装身具とは、何が同じで、何が違ったのか?

 装身具の起源を見つめることで、人とジュエリーの関係性の本質を探るべく、SIRI SIRIデザイナーの岡本菜穂が、考古学者・宮下佐江子さんに訊きました。 

岡本菜穂|NAHO OKAMOTO

SIRI SIRI 代表・デザイナー。桑沢デザイン研究所スペースデザイン科卒。2006年よりジュエリーブランド「SIRI SIRI」をスタート。建築、インテリアデザインを学んだ経験を活かし、ガラスなど身のまわりにある素材を使ってジュエリーをつくっている。現在はスイスの大学院にて人と物とのコミュニケーションについて研究中。http://sirisiri.jp/

宮下佐江子|SAEKO MIYASHITA

国士舘大学イラク古代文化研究所共同研究員、元古代オリエント博物館研究員。編著に『オリエントの文様』『大英博物館のAからZまで』などがある。

 

 

命を守るアミュレット

岡本:宮下さんが研究なさっている古代文明というのは、人類最古の文明になるんでしょうか? 

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宮下:そうです。学校で四大文明って習いますよね。エジプト、メソポタミア、インド、中国の4つです。こうした場所から都市ができ、人間はいろんなものをつくっていくことになります。

都市が生まれるとたくさんの人が集まるので、いろんなことが組織的に行われて、上下関係も厳しくなってくる。すると、身分の高い人は、ほかの人と区別するためにたくさん装身具をつけ始めます。それも、普通の人にはつくれないものをつける必要がある。たとえばラピスラズリという宝石はアフガニスタンでしかとれないのに、紀元前3500年にはメソポタミアにあるんですよ。 

岡本:遠くから運ばれた宝石が富の象徴となり、それが装飾品に使われていったと。

宮下:装飾品のもうひとつの役割が、アミュレット=お守りとしての意味があったことです。とくに西アジアには動物のかたちをしたアミュレットが多いのですが、たとえば豊穣多産の願いを込めて羊やカエルがつくられたり、強さの象徴としてライオンがつくられたり。あるいは蛇は脱皮をするから不老不死を願ってつくられていた……と、考古学者は言うんですけど、じつはどこにもそんなことは書かれていないんです(笑)。だってその頃はまだ文字がなかったから。

岡本:それでもアミュレットというのは基本的に、動物や草木といった自然がもっている力がほしいがために身につけられていたんですよね。

宮下:現代では風邪をひいたら原因はウィルスであるとか、科学の進歩によってその理由がわかるようになったけど、昔はわからなった。だから昔の人たちは、急に頭が痛くなるのはきっと悪いものに睨まれたからだとか、悪い風にあたったからだと考えたんですね。そしてそれを防ぐために、アミュレットを身につけていた。だからアミュレットやアクセサリーをつける行為とは、命にかかわるものだったんです。

いまの私たちがアクセサリーを身につけるのは、「人と違ったものをつけたい」という気持ちがあるからで、これも人間の根本的な欲求だと思います。しかし昔の装飾品は、「何かを防ぎたい」「何かを守りたい」といったもっと切実な気持ちから身につけられるものでした。なかには親子何世代にわたって代々身につけられてきたものも見つかっています。

でもある意味では、いまの若い女の子たちが「かわいく見られたい」という思いでアクセサリーをつけるのも、本人たちにとっては命にかかわるくらい大事なことなのかもしれないけどね(笑)。

岡本:携帯電話にストラップをじゃらじゃらとつけるのも、考えようによっては、原始的な欲求なのかもしれませんね(笑)。

 

 

拠り所としてのジュエリー

 岡本:最近調べ物をしているなかで、アマゾンの中でほかの文明とはまったくかかわってこなかった部族の話を読みました。その部族の最後の1人になってしまった人をブラジル政府が保護をしたときに、裸族である彼に服を与えたところ「着たくない」と拒まれてしまった。ところが、取材のためにやって来たテレビ局のディレクターがお土産としてビーズをわたすと、それは喜んで受け取って、自分でジュエリーをつくって身につけたそうです。

それまで私は、逆だと思っていたんです。つまり、人類は服を発明してからジュエリーを身につけるようになったのだと。でも、もしかしたら服よりもジュエリーのほうがプリミティブなものなのかもしれないと、その話から思ったんです。 

宮下:古い遺跡から動物の牙に穴を空けただけのようなジュエリーが出てくることがありますが、それは毛皮の服ができるよりもずっと前のものだと思いますよ。いちばん古いジュエリーは、小さな貝殻に穴を空けてつくられたもので、約10万年前といわれています。 

岡本:ジュエリーにも、社会的なステータスを表すものとして使われる前に、お守りのような機能があったのかもしれないですね。SIRI SIRIのお客さまからも「出産のときにお守りとしてジュエリーをつけていました」とか、自分が難しい状況に置かれたときにSIRI SIRIのジュエリーに助けられましたと言ってくれる方がいます。そういう話を聞くたびに、いまでもジュエリーは人にとっての「拠り所」になるのだと感じるんです。

宮下:スヌーピーのライナスがいつも毛布をもっているように、人間はかたちのあるものを欲するのでしょうね。とくに現代では、文明が進んだがゆえに人間の存在が小さくなっているようにも思います。だから余計に、頼るものがほしい。

岡本:かつては宗教がその役割を担っていたけれど、科学の発達とともにその力も小さくなってきているのかもしれません。それでもやっぱり、人間は「すがれるもの」を必要としてしまうんでしょうね。

宮下:言い換えれば、「すがれるものがほしい」と思うように丁寧に生きないと。ガシャガシャと生きていたらそうは思えないから。何かにすがりたい、という気持ちをもてること自体も大事なことかもしれませんね。

経験値から創造する 

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岡本:スイスの大学院に入学する前に、イギリスのオックスフォードで語学を学んでいたんですが、アシュモレアン博物館は素晴らしいですね。毎日のように入り浸っていました。

宮下:あそこはすごくいいですね。

岡本:そのときに、どうして人は古いものを見に来るのか?と疑問に思ったんです。理由のひとつには、自分たちの起源を見たいという気持ちがあると思うのですが、宮下さんはどう考えられていますか? 

宮下:あんまり難しいことは考えなくていいんですよ。私はよく学生たちに、博物館は遊園地みたいなものだと言っています。賢くなろうと思わずに、自分の好きなもの、おもしろいと思うものを探しに行けばいいんだって。私なんか博物館に行くといつも、どれがほしいかってことばっかり考えていますよ(笑)。

いまはいくらでもインターネットで情報は調べられるけど、いちばん大切なのは本物を見ること。そして、できれば本物を触ること。そうすることで、いろんな発想が生まれるじゃない。だから、自分の体験に基づいた経験値っていうのは大事なんだよね。私なんて、本物が触りたくて博物館のキュレーターになろうと思ったんだから!

岡本:大学の授業でマシュマロとスパゲティを使って制限時間内にできるだけ高い塔をつくる「マシュマロ・チャレンジ」と呼ばれるワークショップをやったことがあるんですけど、いつもいい記録を残すのは、子どものチームが多いようなんです。彼らはプランを立てる前に手を使って実践するから、最短でトライ・アンド・エラーを繰り返すことができるんです。机の上で計算するのではなく、実験によって得られる経験値からしか創造できないものもあるのだと思いました。

宮下:これからの教育は、そうした経験値を積めるような、ゆっくりとしたものじゃないといけないと思います。そして、美しいものを見たときに「いいな!」と思えるような豊かな心を育むこと。そのためには、やっぱりいろんなものを見るということが大事なのです。

 

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装身具の歴史が教えてくれたのは、人とモノとの関係がいかに密接であるかということでした。そして人間が人間である以上、その関係の本質が変わることはないのでしょう。

デジタルテクノロジーが発達し、あらゆることがバーチャルで行われるようになったいまだからこそ、タンジブルな「モノ」の力を再発見することが必要なのかもしれません。

 

 

文 宮本 裕人

対談写真 伊丹 豪

 

 

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そして、3/1より発売の 2019新作コレクション ‘ EXCAVATION – 発掘 – ’ も、古代の装身具を想起させるジュエリーになりました。デザイナーが イギリス オックスフォードの博物館で、人々が自分たちの想像力の起源を探しているかのような姿から発想したジュエリーコレクション。

歴史を辿る事を体感できるようなインスタレーション展示とともに、新作や定番ジュエリーを販売する展覧会も開催します。是非、ご来場ください。

 

《 展覧会 ‘ EXCAVATION ’ 》

3/1 fri. より開催します。詳細は、こちらをご覧ください。 

《 新作発売 》

日時:3/1 fri. 13:00より発売開始

場所:展覧会場 (3/1 –) / SIRI SIRI SHOP (3/6 –) , Online Store (3/1 -)

全ラインナップは、こちらをご覧ください。

 

* 3/1 - 5 SIRI SIRI SHOP は お休みをいただきます。

  展覧会では、定番ジュエリーも販売いたしますので、是非展覧会へお越しください。

自由の探求者SIRI SIRI