風が、吹いている。

物事の根源と向き合うことは、自分と対峙することでもあります。連載「The root.」では、普段は無意識の中にあるような事象を取り出し、深く観察することで生まれる感覚の言語化を試みます。

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「バタフライ効果(butterfly effect)」という言葉を聞いたことはあるだろうか。

ある場所で蝶が羽ばたきをすると、地球の裏側で竜巻がおこる事があるという。この気象学の用語をカオス理論に引用したもので、些細なことがさまざまな要因を引き起こして、大きな現象へと変化することを指す。

風は、姿やかたちがなく、捉えどころがない。

しかし頰に触れ、髪がなびくとき、風という現象を受け止める。

人は、風土の中に生まれ、その土地の風気を受け、風俗にならう。それはすべて、与えられるものであった。風貌や風格といった、個人の特徴をあらわすことばにも風の文字が添えられるのは、風がそのすべてを規定すると考えられてきたからである。

風は、運ぶ。

誰かの祈りを、樹々が呼吸をする喜びを。

風は、祓う。

仕込まれた恐れを、青々と深い悲しみを。

風は、調べる。

澱んだ不確かさを、荘重な太古の響きを。

風が、吹いている。

そこには、永遠と瞬間が同時にある。

文 増村 江利子

写真 伊丹 豪

THE ROOT.SIRI SIRI